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たんぽぽ舎です。【TMM:No2251

2014年8月18日()地震と原発事故情報-1つの情報をお知らせします

                           転送歓迎

━━━━━━━

┏┓

┗■1.川内原発のパブコメ募集は終わったが…

 |  再稼働は出来ない(はず)

 |  手続的にも間違っている パブコメは無効

 └──── 山崎久隆(たんぽぽ舎)

 

◎中身のないパブコメ案

 

 8月15日に募集が終わった「川内原発設置変更許可申請書に対する審査案」への意見募集だったが、これに関連して再稼働の時期に関していくつか報道がされている。

 例えば8月5日付けの「川内原発の再稼働 12月以降の見通し」(NHK)などだ。

 7月16日に規制委員会による事実上の審査合格といった報道がなされていたが、実態は全く違っている。それがこの報道でも明かされている。

 原発の運転許可を出すのは経産大臣である。内閣総理大臣ではない。(もんじゅのような研究炉は内閣総理大臣)だから安倍首相が何かを「保障する」など行政手続き的にあり得ない。責任を負うというならば事故が起きたら損害は全部自ら及び責任者の財産で賠償することを契約すべきだろう。

 パブコメに掛けられていた文書の表題も「川内原発設置変更許可申請書に対する審査案」となっていることに注意してもらいたい。新規制基準とか合格といったものは何処にもない。あるのは従来の行政手続きの「設置変更許可申請書」という言葉だ。これは原発の様々な設備変更や、プルサーマル用にMOX燃料を装荷するといった時にされる申請と同じ手続きだ。

 そしてこの文書、今まで以上に中身がない。科学的、技術的意見のみ、などとパブコメ募集要項に記載されていたが、いったいこの文書の何処が科学的で専門的なのか。工学部の学生の試験答案ならば失格だろう。何しろ根拠がほとんど書かれていない。

 工学的な妥当性とか安全性を保障する施設、設備、管理が書かれていなければならないのに「方針を妥当なものとした」などと規制委の結論が書いてある。一方、方針の提示では変更許可申請にならない。「何をどう変え、その強度解析などの妥当性はこうこうだから変更を申請する」といった内容でなければならない。

 そこで出てくるのは設置工事認可申請、通称「設工認」または「工認」だ。これは具体的な工事内容を記述するので、例えば耐震強度をどのように評価しているかなどはこれを見なければ分からない。この設工認が規制委員会により承認されて初めて、具体的な工事に着手でき、それが完成した後に使用前検査を受審し、合格して初めて運転可能な状態になる。一般的に原発の手続きは、このように行われる。

 

◎再稼働は出来ない

 

 これでようやく冒頭の記事の内容が理解できるようになる。

『原子力発電所の再稼働に必要な審査に事実上合格したとされた鹿児島県の川内原発について、九州電力は、原子力規制委員会に提出する資料の作成が大幅に遅れていることを明らかにしました。これに伴い、九州電力が目指す川内原発の再稼働は12月以降になる見通しです。』

 そう、九電はまだ工事認可申請書を作成できていない。これでは再稼働手続きは進まない。

 『九州電力の中村明上席執行役員は会合のあと報道各社の取材に応じ、「資料の提出は来月末(9月末)を目指すが10月にずれ込む可能性もある。まずは認可をいただくため書類を提出することに集中したい」と述べました。』

 ではなぜ、予め分かっていたようなものの再稼働申請手続きができないのか。

その謎は突如引き上げた基準地震動Ssにある。

 『遅れの理由については、地震による揺れの想定を引き上げたのに伴って、設備の耐震性の評価に予想以上に時間がかかっていることなどを挙げました。

 詳細設計の資料を提出したあとも規制委員会による資料の確認や完成した設備の検査に少なくとも2か月前後かかるとみられ、地元の合意が得られた場合でも九州電力が目指す川内原発の再稼働は12月以降になり、来年になる可能性があります。』

 基準地震動Ssは、今回の新規制基準適合性審査に提出した設置許可申請でも540ガルだった。これは2006年の耐震設計審査指針変更に伴い、原子力安全・保安院が各電力会社に指示した「耐震バックチェック」に基づいて2010年1月に提出した「耐震設計審査指針の改訂に伴う九州電力株式会社川内原子力発電所1号機耐震安全性に係る評価について(基準地震動の策定及び主要な施設の耐震安全性評価)」(耐震バックチェック)中間報告の時から変わっていなかった。

 ところが今回、規制委員会によりSsの値が小さすぎるとの指摘を受け、「えいや」と引き上げて見せたのがSs620ガルである。

 発生する地震や過去の地震動解析などから、新しい値になること自体、あり得ることだろうが、川内原発の場合、根拠が良く分からない。620どころか、もっと大きいはずとの指摘も当然ある。

 

◎九電の見込み違い

 

 いうまでもなく、Ssを「えいや」と引き上げたからといって突如耐震強度が上がるわけがない。

 次は何が始まったかというと、そうやって引き上げたSsの元になる模擬地震波形を使って施設設備をコンピュータ上で揺らし、必要な強度や操作性が確保できるかを調べ、足りない部分は補強し、補強でもダメな場合は作り替えるなどしなければならない。(そもそもコンピュータ・シミュレーションなどあてにならないとの意見もある)

 普通、原発の新設でも耐震計算を行うには年単位の時間がかかる。

 耐震バックチェックも、2006年に新耐震設計審査指針が決まっても、耐震バックチェックが始まるのは2008年、そして川内原発(1号機)が従来270ガルの設計用限界地震動(S2)を新耐震設計審査指針に合わせて作り替えて中間報告を出したのは2010年になってからである。4年もかかるにはそれだけの理由があるわけで、今回のように、審査書を出した後に、いきなり540ガルから620ガルに引き上げたら、その後に続くはずの耐震計算も設工認も全部作り替えになり間に合うわけがないのである。

 

◎耐震性に重大な欠陥

 

 あまり楽観的になってはいけないが、年内に文書を作ったとしても、それは作文であって、実際に必要な工事類は簡単には進まない。

 おそらく基準を割り込むところがいくつも出てくるだろう。特に2号機に比べて、もともと建設時の耐震基準地震動S2の値が小さい1号機は、さらに厳しくなると思われる。

 耐震バックチェック「中間報告」はSsを520ガルとしていた。それに対して原発の構造強度は建設時270ガルで作られていた。もっとも、この値で耐震強度計算をして物を作っていたら地震よりも圧力や荷重などの応力が大きくなり、強度不足になる部位が多数出るから、実際のところ原発の各部材の強度を決定しているのは圧力や振動などの方が多くなる。ところが今回はSsをいきなり2.3倍の620ガルに引き上げたので、随所で耐震性にかかる安全裕度を食いつぶし始めたと思われる。

 例えば1.96倍あったラジアルサポートは1.71倍に、1.24倍あった蒸気発生器支持構造物は1.09倍に、という具合だろうと想像する。(数値は設工認などが出ていない段階なので筆者の推計)

 例えば蒸気発生器支持構造物はこのままでは使えないと思われるので、補強が必要になる。その工認がされていないのだから、これでは動かせないわけだ。

 

◎制御棒はもっと深刻?

 

 制御棒はもっと深刻かも知れない。

 耐震バックチェックでは、挿入時間が1.86秒と、評価基準値(安全評価の解析条件である制御棒クラスタ落下開始から全ストロークの85%挿入までの時間)である2.2秒の85%程度だった。これを機械的に比例計算すると620ガルでは2.14秒になる。2.2を下回ったといって喜んで良い値ではない。

 しかも耐震強度の場合は基準を超えたとたんに機器類や建屋が一基に破壊されると決まったわけではないが、制御棒の挿入遅れは、確実に炉心の安全性を危険にさらす。地震の最中(2.2秒ではまさに本震が襲ってくる直前くらいだ)に挿入に失敗した状態でフル運転中の原子炉が揺さぶられるなど、想像したくもない。

 そうなると現実味を帯びるのがATWS、異常な過渡変化時に安全保護系が制御棒挿入信号を発しても挿入できない、という大変な事故になることだ。以前、大飯原発の再稼働がらみで耐震性の問題が指摘され、同じ批判がされていたが、川内原発も同様の欠陥がある。

 

◎対策不能のATWS

 

 これをどう解決するのか。強度部材ではないので、ますます難しくなる。

 加圧水型軽水炉については、どこもSsが1000ガルを超えない「最大の理由」は、この制御棒駆動系にあるのだろう。重力加速度980ガルと同じ揺れが挿入方向と反対に働けば、加圧水型軽水炉のように挿入そのものを自由落下で行う構造の原発では、どうしても「入らない時間」が生じてしまう。

 その対策としては、動力を取り付けての強制挿入を行うしかないのだが、加圧水型軽水炉の構造を見れば、如何にそれが困難であるのかが分かる。

 それに、そのような装置を付けたら今度は、その安定動作の保証、誤動作防止の仕組み、人の操作が必要な場合の操作手順、インターロック機構、安全保護系への組み込み方等々、検討すべき問題が山積みになる。到底1年や2年で改造、設置、運転開始など出来るわけがない。

 

◎次の原発事故は起こる

 

 結局、大地震の襲う日本において、耐震設計を行って安全に動かす、など幻想に過ぎないのである。重力加速度を超えるような地震が起きることを想像さえしなかった時代に原発は作られ始めた。そして4000ガルもの地震動が観測される今になっても、震度5強程度の地震で耐震計算をしている原発が再稼働をしようとしている。

 その間違いに気づけないのだったら、次の原発事故は確実に起こる。

 

◎パブコメは無効

 

 以上のようにパブコメは、重要情報、必要手続き、安全解析を全部すっ飛ばして、根拠のない作文を見せられただけだった。単に手続きを進めるためだけのパブコメに意味はない。こんなものは無効である。

 これから必要なのは、設工認や新たな耐震設計を批判し、国会や地元議会などを含めて広く批判を集め、再稼働へのゴーサインを政府や自治体に出させない取り組みが重要になる。手続きは「やれば良い」というものではない。内容も伴わない作文は、「突き返す」しかないのである。

 パブコメから外されている原子力防災も含めて、これからも追求は続く。
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