NUCLEAIRE
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┗■2.コラムその31「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」
│ 「富士山噴火しない」はあり得ない
│ 現在、噴火中の小笠原の新島も富士山とつながっている!
│ 前兆なしに噴く多数の火山、富士山も適切な前兆を出すとは限らない
└────(島村英紀 地震学者)
○富士山の最後の噴火は1707年(宝永4年)のことだった。以後、300年以上も
噴火していない。噴火をくり返してきた富士山でこれほど長い休止を経過した
ことはない。たとえば平安時代は約300年間だったが、その間に10回も噴火し
ている。地球物理学から見れば、富士山がこのまま将来も噴火しないことはあ
り得ない。
富士山の下には太平洋プレートがフィリピン海プレートと衝突して潜り込ん
だときに出来るマグマが次々に生まれていて、これがやがて噴火して出てくる
ことは明らかだからである。
この二つのプレートの衝突は富士山の直下だけではない。そこから南へ1000
キロ以上も続いていて、マグマも富士山の下から帯状に南へ続いている。11月
から噴火を続けている小笠原・西之島の新島も、このマグマが上がってきたも
のなのである。
マグマが地下で南北に伸びる帯状につながっているから、そこから上がって
きて噴火する火山も南北の列になる。富士火山帯だ。1989年に伊豆半島の伊東
の沖で海底噴火した手石海丘も、伊豆大島も八丈島も、この火山帯に属する火
山なのである。三宅島で4月に火山性の群発地震が起きたのも、この火山帯の
活動の一環である。
○ところで、富士山がいずれ噴火することを予想して、もちろん、それなりの
観測網が敷かれている。残念ながら地下のマグマの量や動きを見ることは現在
の科学では出来ない。それゆえ他の活動的な火山と同様、付近で起きる小さな
地震の観測や、山体膨張の観測である。
このうち、富士山では特有の地震が観測されている。「低周波地震」だ。他
の地震とはちがって低い周波数成分が多い地震である。
この地震はマグマの動きと関連している。他の火山で観測されることもある
が、富士山では地下15 - 20キロ、つまり富士山の高さの5倍もの深さのところ
で起きる。
この低周波地震はいままでも増減をくり返してきた。たとえば2000年ごろに
はずいぶん増えて科学者たちを緊張させたが、なにごともなくおさまってし
まった。
他方、山体膨張はほぼ一様に進んでいる。富士山が膨らんでいるわけだ。こ
れは地下のマグマが増えているためだと思われている。実はこの山体膨張が
2006年からわずかながら加速しているのは、とても気になる。
このように富士山は「監視下」にある。
しかし安心は出来ない。最大の問題は、最後の噴火が300年以上も前だった
から、噴火の前に何が起きたかが分かっていないことなのである。つまり、小
さな地震がどこまで増えたら、あるいは山体膨張がどこまで進んだら噴火する
のか、という限界が分かっていないことなのだ。
福島県の磐梯山では2000年の夏に地震が増えて一日に400回を超えた。
しかし結局は噴火しなかった。他方、なんの前兆もなしに噴火した火山も多い。
富士山も事前に「適切な予兆」を出してくれるとは限らないのである。
(12月13日『夕刊フジ』より)